「ぎゅっ」
『ぎゅっ』
文章のない、絵本。
息子が赤ちゃんの頃、毎日何度も読んでいた。
読む、といっても文章はない。
主人公のさるや、さるが出会う動物たちの表情やしぐさを見て、
ストーリーをつくって読んでいた。
言葉も喋れない赤ちゃんだった息子は、
口をぱくぱくしたり、手をバタバタしたりしながら、ただ「見ていた」。
お決まりの、嬉しい展開がくると、手も足も全身をばったばったさせて「ぶー!!」と反応していた。
いつものその反応が、読む私は可愛いやらおかしいやら。
この絵本は、小さなさるが一人、森の中を軽快にお散歩している(ように見える)シーンから始まる。
ぴょんぴょん飛び跳ねて、わくわくしているおさるさん。
すると目の前にぞうの親子があらわれた。
小さなさるはぞうの親子を指さし、「ぎゅっ」。
(あぁ!ぞうさんのおかさんと、ぞうさんの赤ちゃんが「ぎゅっ」してるー!)
今度は、カメレオンの親子・・
(あぁ!カメレオンのおかあさんと、カメレオンの赤ちゃんが「ぎゅっ」してるー!)
お次はへびの親子・・
(ああ!へびさんのおかあさんと、へびさんの赤ちゃんが「ぎゅっ」してるー!)
すると小さなさるは指をくわえ、なんだか淋しそうな顔にになる。
森の中を、ひとり、うつむいて歩く小さなさる。
おとなのぞうの鼻にのり、小さなさるは言う、「ぎゅっ」。
(ぞうさんのおかあさん、ぼくもぎゅっしたいよー。)
(あれ?おかあさんは?)
(ママいないのー・・)
(そっか、それじゃあ一緒に探してみましょうか)
(うん!)
(ぞうの赤ちゃん:ママ見つかるといいねー)
(うん)
するとそこへ、ライオンの親子があらわれた。
3匹の赤ちゃんライオンたちがおかあさんライオンとじゃれ合っている。
(あぁ!ライオンのおかあさんと、ライオンのあかちゃんが、「ぎゅっ」してるー!)
キリンの親子、カバの親子も・・。
すると小さなさるは口を大きく開けて叫んだ、「ぎゅっ!!!!!」
小さなさるは、
泣いた。
(うえーんうえーん、ぼくも「ぎゅっ」したいよーー!!)
ぞうの親子、カメレオンの親子、へびの親子、ライオンの親子、キリンの親子、カバの親子はみんな、小さなさるを囲んで心配そうに見つめている。
そこへ、
「ジョジョ!!!!!」
小さなさるのお母さんが、高い高い木の上からあらわれた。
(あー!ママだ!ママがいたー!!)
(息子のバッタバッタが始まる場面)
(小さなさるは、ジョジョという名前だったんだね。)
ジョジョは、「ママー!!!!!!」と走る。
ジョジョの親子は、
とってもとっても嬉しそうに、
とってもとっても幸せそうに、
「ぎゅっ」。
そしてその光景を他の動物たちはみな、同じように喜んでいる。
ジョジョのおかあさんが、ジョジョを送り出し、ジョジョは、ぞうのおかあさんの鼻を「ぎゅっ」している。
(さあジョジョ、一緒に探してくれたぞうさんのおかあさんに、お礼をいいましょう)
(うん!ぞうさんのおかあさん、ありがとう!ぎゅっ!)
そしてそして・・
さる、ぞう、カメレオン、へび、キリン、カバ・・全ての親子が、
「ぎゅっ」を繋げ、楽しそうに輪になる。
(みーんな、みんな一緒に「ぎゅっ」しよう!)
小さなさると、さるのおかあさんが、手を繋いでお互いを呼び合うシーンで、この絵本は結末を迎えている。
「ママ」
「ジョジョ」
私は、この絵本を読み終わったあと、
「〇〇くんと、〇〇くんのおかあさんが、ぎゅーーーっ!!!」と、
「ぎゅっ」していた。
赤ちゃんだった息子も、待ちかまえていた。
「抱きしめ合う」感触・・、
お互いがお互いを「大好き」で、
お互いがお互いを「大切」で、
お互いがお互いを「愛しく」て、
「ぎゅっ」すればするほど、その思いは膨らみ、
その相手でなければ感じられない、
「安心感」を与え、受け取り合う。
「大好きだよ」
「愛しているよ」
の言葉はなくても、
ただ、ぎゅっする。
それだけで通じ合うことのできる、
「ぎゅっ」は、なんて美しく、「愛そのもの」の行為なのだろう。
破れてはテープを貼り、破れてはテープを貼りの、
なんとも年季の入った、
「ぎゅっ」したくなる、
「大好き」がいっぱいになる、
あたたかく、幸せな気持ちにさせてくれるこの絵本は、
ずっとずっと、宝物。
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