「好き」を選ぶこと、「想像」すること『ねえ、どれが いい?』
自分を認めていないひとへ -ロウソクの灯(ともしび)-
『あかり』
文:林 木林 絵:岡田 千晶 / 光村教育図書株式会社
この絵本の絵は、
物語にでてくるロウソクの灯をとても繊細に表されている。
灯の大きさ、あたたかさ、風、その場の明るさ、それを見つめる人の心の動きを想像すると、
なんだか、心の外側を覆っているいくつもの層が、とてもじんわりと溶かされていく感覚だ。
物語の始まりは、
「あたらしい ろうそくが いま、はじめて 火を つけてもらいました。」とある。
大切な人を思って明かりを灯す、ろうそくが主人公のお話。
自分に自信がない人は多いと思う。
自分は何ができるのか探し続けている人。
周りと比べて劣等感を感じている人。
自分なんている必要があるのか、意味があるのか、思い詰めている人。
抜け出したくても抜け出せないトンネルのなかにいるような苦しみを感じている人。
「自分」は、本当に、そうだろうか。
この物語が、
たくさんのひとの心に届きますように。
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生まれて初めて照らしたのは、生まれて間もない赤ちゃんと、幸せそうに笑っている家族。
このろうそくは、心に優しい明かりが灯りますようにと願って、
赤ちゃんのお母さんが作ったものだった。
次に火をつけてもらったのは赤ちゃんの一歳の誕生日。
赤ちゃんは少しだけ大きくなっていた、
ろうそくは赤ちゃんが笑うと嬉しくなって、小さな火を揺らして微笑むのだった。
ろうそくは何度もその部屋を優しい明かりで包んだ。
火をつけてもらう度、女の子は大きくなっていった。
ろうそくは火を燃やす度、少しずつ、少しずつ小さくなっていった。
珍しく庭に連れ出してもらったときがあった。
嬉しそうにみんなの顔を照らしていると、急に風がふいてきて火が消えてしまったのだ。
辺りが真っ暗になったその時、雲から月が顔を出し、庭中が明るくなった。
ろうそくにもまた火が灯ったけれど、
身のまわりしか照らせない自分がちっぽけに思えてならなかった。
最初は幸せな時に照らす明かりが、
いつしか辛いときに寄り添う明かりになっていた。
暗闇が怖い夜、
喧嘩して誰の顔も見たくない夜、
ひとりぼっちで淋しい夜、
ろうそくの明かりの中で、女の子は泣いたり膝を抱えたりした。
その度に、こがねいろの小さな火が優しくうなずいたり、首を振ったりしながら話を聴いてくれた。
好きな人ができたとき、
生きるってなんだろうと考えたとき、
小さな炎は一緒に悩んだり、迷ったりしながら寄り添ってくれた。
やがて女の子は大人になり、家を出ていく時がきた。
女の子は古い木箱を見つけた。
蓋を開けると見覚えのある小さなろうそく。
女の子はそっとかばんに入れた。
またろうそくは新しい家族を照らし、
大切な時を照らしているうち、女の子は少しずつ歳をとっていった。
ろうそくはますます小さくなっていった。
家が新しくなり、天井に煌々と明かりが灯るようになった。
嵐にも木枯らしにも、もう誰も怖がることはなくなった。
ろうそくに火がつくこともなくなった。
ろうそくは木箱に入れられたまま、長い間棚の奥で過ごした。
きっと自分がちっぽけで役に立たなくなったから忘れられたのだと思い、悲しくなった。
たまに聞き覚えのある足音が近づいてきたかと思うと、そのまま通り過ぎていくことがあった。
歳月とともに、足音の数も次第に減っていった。
もう今どこにいるかも忘れそうになったある日、木箱の中いっぱいに光が差し込んだ。
蓋が開かれたのだ。
ふと気づくと、おばあさんの顔を照らしていた。
「ずっと探していたのよ」
おばさんはろうそくに言った。
「怖かった夜も、悲しかった夜も、あなたの明かりに守られて、どんなに心強かったことでしょう。
暗闇をこんなに優しく照らすことのできる明かりを、私は他に知らないわ。
お日さまよりも、お月さまよりも、心の一番奥までそっと届くのよ」
それを聞いてろうそくは嬉しくなった。
「私の灯す小さな明かりを
大事に思ってくれる人がいた。
生まれてきて本当によかった。」
最後の火が、いま、静かに消えた。
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「自分」の灯を求めている存在は、必ずある。
「自分」の灯を、そのまま、当たり前のように認めている存在は、必ずある。
共にいることを、
寄り添い読者に感じさせてくれる、
優しくて、
勇気づけてくれる、
このろうそくの物語を味わい、
自分の内っかわに在る、灯を、今、観るときだ。
灯は、
誰のなかにでも、在る。
その灯の存在を知って、
明かりを灯そう。
ただ灯しているだけで、
それだけで、
いいんだ。
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