Novel Therapy『シェリービーンの大冒険』
『シェリービーンの大冒険』
まり 著
シェリービーン 9歳 フランスのメソポタミアに住む9歳の男の子。
髪は、金髪のおかっぱ。季節は、春なのに半そで半ズボンの元気で活発な男の子。
メソポタミアの町並みは、古い歴史も感じる閑静な住宅街。でも、ただ古びているわけではなく、古い建物はリメイクされたり、大切に扱われたりしていて保存されている。中には、新しい家も建ち始めていたりして、伝統と新しい建築とが入り混じった中流家庭の象徴のような街並み。
シェリービーンはそんな街で、これまた中流階級の本当にごく普通の家庭で生まれ育った。父も母も優しくて、時に厳しくて、でも温かいそんな生活をしていた。近所に友達もたくさんいたし、学校も別に嫌いではなかった。どんな事も人ともそこそこ仲良くやってたし、普通に楽しい毎日を送っていた。
でも、シェリービーンには何かいつも物足りなかった。なんだか、ちょっとつまらなかった。
人に言ったら、「きっと、君は贅沢な人だ。」なんて言われて、簡単に片づけられてしまうのだろう。
だから、シェリービーンはいつも、一人でその葛藤と戦っていた。
「僕には何が必要なんだ?何が足りないんだ?」
どこか遠くに行きたい!何か特別なことをしたい!シェリーは、いつもそんなことを考えていた。
そんなシェリーに、ある日、「この近くの森のどこかに、七色に光るビー玉があるらしい」という話が舞い込んできた。その話を教えてくれたのは、近所に住むフェレックスおじさんだった。
フェレックスおじさんは、シェリーの父の弟で、車が大好きなおじさん。汚れた繋ぎを着て、大好きな車の整備を朝から晩までやっている。この町唯一の車の整備士さん。シェリーは、フェレックスおじさんの、子供心を忘れない、明るくて面白いところが大好きだった。シェリーと同じで、そんなおとぎ話のような話を心底信じてしまう、そんなところも大好きだった。
七色に光るビー玉。
愛と勇気を持つ者だけが手に入れることのできる光。
日常を打破したいと思っていたシェリーにとって、心惹かれる話だった。
シェリーは、早速、次の日曜日の朝、水筒にお茶を入れて、リュックにお菓子を詰め、メソポタミアから少し離れた森に向かうことにした。森に行くのは、初めてだった。本当は、少し怖かった。森って、どんなところなんだろう?絵本とかで見たことはあるけれど。動物とかもいるのかな?暗いのかな?迷わないかな?
でも、シェリーは、そんな不安よりも「変わりたい!!」そんな思いの方が強かった。楽しみの方が勝っていた。だから、もし、何が起きたって、少々想定内だ!!そう思って、森へ急いだ。
森は、思ったより明るかった。風がそよそよ吹いて、涼しかった。
「ビー玉どこにあるのかな?」シェリーは、念入りに道の上に何か落ちていないかキョロキョロを探しながら歩いた。20分くらい歩いた頃だろうか?
目の前に、三匹の動物が目に入った。
「あ、絵本で見たことある動物だ。本当に存在するんだ。」シェリーは思った。
たしか、クマとトリとキツネ・・・。
すると、クマがこちらを見てこう言った。
「坊や、何しに来たんだい?」
「えっ、動物がしゃべった!!」シェリーはびっくりした。
「あの、僕七色に光るビー玉を探していて。ビー玉知りませんか??」
シェリーは、質問に答えた。
クマは、こちらをもう一度見返すと、「知らない。」そう言った。
「分かりました。」シェリーは返した。
近くに、トリとキツネもいたので、シェリーは、二匹の動物にも同じ質問をしてみた。
彼らもまた、「知らない。」そう答えた。
彼らは、なんだかとても気だるそうにみえた。
そして、本当はビー玉のありかを知っているような、そんな雰囲気も感じた。
「意地悪だなあ。」シェリーは思った。
でも、教えてくれそうになかったので、シェリーは、また森の奥の方へ進んだ。
どれくらい歩いたのだろう?
シェリーは、歩き疲れたので、切り株に腰かけて、リュックからお菓子を取り出し、お茶を飲んだ。
「ビー玉見つかるのかな?」シェリーは、ふと不安に襲われた。せっかく森に来たのに、何もみつからなかったらどうしよう。悲しいなあ。
シェリーが、落ち込んでいると、一匹のウサギがぴょんぴょんと跳ねながら近づいてきた。
「おい、そこの君!何してるんだい?」ウサギは、シェリーに言った。
「七色に光るビー玉を探しているんです。」シェリーは言った。
ウサギは、ふと大きなため息をした後で「君は、何も分かってないな。」そう言った。
「えっ?」シェリーは聞き返した。「君は何も分かっていない。いや、何も努力していない。が正しいかな」
ウサギは言った。シェリーは言った。「何も努力していない?」シェリーは、何のことやら分からなかった。ウサギは、一回コホンと咳ばらいをした後で「君は、本当にビー玉を探したいんだろう?どうすれば見つかると思ったんだ?君は、本当はちゃんと気づいていたはずだ。」ウサギは言った。「えっ?」「相手をもっと観察して。そして、喜ばせてみなさい。君には力がもうちゃんとあるはずだ。」そう言って、ウサギは、またどこかへ去っていった。
「相手を観察する?喜ばす?僕は、どうしたら見つかるか分かっている?」シェリーは、注意深く頭の中を整理してみた。今日、森の中に入ってから、今までの事を。森を歩いていたら三匹の動物に出逢って、ビー玉のありかを聞いたら知らないと言われて。でも、もしかしたら、この方たちビー玉のありかを知っているんじゃないかと思って・・・。「なるほど。そういうことか。」
三匹の動物を観察して、彼らを喜ばす?そうしたら、ビー玉のありかを教えてもらえるのか?
シェリーは、今来た道を戻り始めた。
しばらく歩くと、またあの三匹が輪になって、話をしていた。
シェリーは、とりあえず彼らに近づき、話をしてみようと思った。
「こんにちは、先ほどはどうも。」シェリーは言った。「ビー玉は、見つかったか?」クマが言った。
「いいえ、見つからなくて。どうしようかなと思っているところです。」シェリーは言った。
シェリーは、話をしながら彼らを観察することにした。
まずは、クマ。この三匹の中でもリーダー格で、力もありそうだ。
彼自身も自分が一番強いと感じているような気がした。
「あの、クマさん。この森の中で一番強いのは、クマさんですか?」
「わはは。」クマは大声で笑い「まあ、そういうことになるかな。」そう言った。
シェリーは、思った。クマは、自分を認めてもらいたい、褒めてもらいたい。そういう種類の動物かもしれない。
シェリーは、実際そういうタイプの人物があまり好きではなかった。自信のない奴ほど、強がる。クラスでもそういうタイプの人とは距離を置くようにしていた。
しかし、ここはクマをお膳立てするのが得策のように感じた。
「さすが、クマさんですね!!強そう!!クマさんがいれば、この森は安泰ですね。」
シェリーは、そう言った。クマは、その言葉に「わはは、そうかな。よく分かってるな、お前。」クマは気分を良くしたようだった。
次は、トリを見た。トリは、飛ぶのはうまいが、大きいものを運んだりと、力仕事に困っているような印象を受けた。そこで、シェリーは、「ねえ、トリさん。そこにあるミカンの実、そこの鳥の巣に運ぼうか?」と声かけると「ほお、あんた、結構気が利くね!ありがとう。よろしく頼むよ。」とトリは言った。
シェリーは普段、自分から誰かの役に立とうと思わない、どちらかというと受け身タイプの人間だったのだが、ウサギの言葉を思い返して、相手に貢献できることを考えてみた結果、トリを喜ばすことに成功した。
最後に、キツネ。シェリーはキツネを観察した。さっきからずっと不貞腐れた顔をしている。3匹でいても、たいてい話しているのはクマとトリで。キツネは、その話をつまらなそうに聞いている。「なんだか、気難しそうだな。」シェリーは思った。普段なら、こういうタイプの人間とは、あまり好かないので、こちらから近づくことはないのだが。このキツネをどうやったら笑わせられるのか考えてみた。「モノマネでもしてみようかな。」シェリーは思った。そこで、最近流行っているテレビのお笑い芸人の真似をしてキツネにみせた。
テレビを見てないので知らないはずなのに、キツネには受けたようで「うわはははは。」キツネが笑った。「なんだ、案外、笑うとかわいい顔してるんだな。」シェリーは思った。
3人と打ち解けたシェリーは、雑談を交えながら、さらに交流を深めてみた。
そして、だいぶみんなとの温度がいい感じに上がった頃、もう一度同じ質問をしてみた。
「ねえ、クマさん。七色に光るビー玉どこにあるか知らない?」
クマは言った。「知ってるよ。
」そして、「案内してやるから、この上に乗りな」そう言って、クマの肩を指した。
他のトリもキツネもニコッと笑った。
シェリーは、クマの上に乗り、トリに先導され、キツネも後からついてきて、みんなで、光るビー玉の元へ進んだ。シェリーは、なんだか胸の奥に温かいものを感じた。「なんなんだろう。このあったかい感じは。」シェリーは、なんだか分からなかったがとても心が満たされているのを感じた。
はじめは、見向きもされなかった動物たちと、今はこんなに心打ち解けて、一致団結している。なんか素敵だなあ。シェリーは思った。
しばらく歩くとクマが止まった。
「ここだよ。」クマが言った。シェリーは、クマの肩から降り、光るビー玉を見つけた。
それは、本当に七色に光っていて、とてもとても神々しかった。
シェリーは、そのビー玉を手に取ってみた。あまりにも温かくて、涙が出てきた。
すると、森の中で助言をくれたウサギが木の陰から出てきて、シェリーにこう言った。
「人生を楽しむために必要なものは、愛と勇気なんだよ。
君は、この森へ光るビー玉を見つけに、一人で勇気を出してやってきた。
そして、そこで出会った動物たちに、喜びを自分の中から生み出して与えることが出来た。」
ウサギは、光るビー玉を指さして、続けてこう言った。
「これは、君の心そのものなんだよ。
君の中にはもうすでに、必要なものはそろっている。あとは、それをどう調理して出すかなんだよ。
本当に人生を充実させたいのならば、受け身で待っていては何も始まらない。
自分から勇気を出して、外の世界に出る事。そして、日々、自分を色々経験から満たし、自分の中から相手に必要な愛を与えていくことなんだよ。それが、まだ未熟なものであっても構わない。それでも相手をちゃんと観察し、必要なものを今ある自分の中から与えることが出来れば、それは相手には伝わるものだから。」
そう言うと、ウサギもクマもトリもキツネも姿が消えて・・・。
気が付くと、シェリーは、森の前で、光るビー玉を握ったまま倒れていた。
あたりは、夕陽が沈んでいくところで、夕焼けが広がっていた。
シェリーは、光るビー玉を握りしめて、「夢じゃなかったんだ。」そう呟いた。
日々を満たす事なんて、本当はそんなに難しいものではないのかもしれない。
どこか遠くへ行かなくても、何か特別なことをしなくても、ちゃんと今ある場所で得られるもの。
そして、そこから未来へ広がっていくものなのかもしれない。シェリーは、そう思った。
「フェレックスおじちゃんに、このビー玉見せに行かなくちゃ!」
シェリーは、夕焼け空を背にスキップしながら、フェリックスおじちゃんの元に走っていったのだった。
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