Novel Therapy『お空のずっと上の物語 第1章』
『お空のずっと上の物語 第1章』
Merumo 著
人間が住んでいる、お空のずーっと上に、天使たちが住んでいる世界があります。白いふわふわした雲がただよう、光輝く世界で、草や木、岩、家などはありません。
そこには、5歳くらいの女の子や男の子が、たくさん住んでいて、赤、白、黄色などのチームに分かれています。チームの名前はパワー注入隊。それぞれの色には役目があるのです。
白は浄化、赤は勇気、黄色は元気、青は叡智、紫は霊性です。そこにいる子どもたちは、所属するチームの色の服を着ています。シンプルな膝上丈のワンピースのようなデザインで、タイツや靴も、自分の部隊の色をしています。
みんな手には銀色のステッキを持っています。先はハート形になっていて、真ん中には透明な石がついています。周りには小さな虹色の石もついています。
これを持って、人間世界へ行き、必要なパワーを注入するのです。
そこにかなちゃんという、白の浄化部隊にいる女の子がいました。かなちゃんは、青い眼がくりくりとかわいい女の子で、金髪のおかっぱがトレードマークです。いつもニコニコ元気に仕事をしています。
かなちゃんは自分の仕事が大好きです。お空からパトロールをして、もやがかかってグレーになった人を見つけ、きれいに浄化するのがお仕事です。
グレーのもやを見つけると、ステッキをかざし、きれいになーれ!といって、その人に向けます。すると、真ん中の石がキラキラ輝いて、光が発射され、その人を包み込むのです。
すると、あっという間に、グレーのもやがはれます。
辛い思いをしていたとき、たまたま読んだ本で涙が出てスッキリしたり、誰かに話を聞いてもらってスッキリするというのは、この白部隊、かなちゃんたちの仕業なのです。
天使時間と人間時間は違うので、天使時間では、あっという間にもやがはれますが、人間時間では、少し時間がかかります。ふと本屋に立ち寄りたくなり、たまたま手にした本を買って読み、一時間ほど読んで泣くというくらいの時間です。
かなちゃんは、もやが晴れたときに見える、キラキラ喜ぶ魂を見るのが大好きなのです。毎日、何人もに浄化パワーを注入しますが、疲れたと思うこともないですし、飽きるということもありません。何度やっても、初めてやったときのように、ワクワク楽しいのです。
赤や黄色の部隊と一緒に仕事をするのも楽しみの一つです。自分だけでは見られない、魂の光り方をするのです。赤や黄色など、様々な光を放ちます。青部隊がいないはずなのに、青の光が見えることもあり、そのとき、その人にしか見られないのが醍醐味です。
そんなとき、赤部隊のきのちゃんから、お空のどこかに黒部隊があるという話を聞きました。
「黒部隊は、このお空にいるんだけど、私達とは会わない場所にいるんだって。とても特別なお仕事みたい。」
「へー。どうやったら会えるの?」っとかなちゃんは興味津々で聞きました。「さあ。私達には行けないどこかよ」そう言ったっきり、きのちゃんは、別の話を始めてしまいました。
かなちゃんは、その話を聞きながら、ずっと、どうすれば黒部隊に会えるのか考えていました。
そんなある日、かなちゃんは、ちょうちょが飛んでいるのを見つけました。草も木もないお空には、蝶はいません。青く薄っすらと光る蝶は、ひらひらとゆっくり飛んでいます。どこから来たのかしら、不思議になってついて行ってみました。
気づくと、草や木が生い茂る森の中にいました。蝶だけを見つめていたので、どうやってたどり着いたのかわかりません。
ふと、見ると小川のところに少年がいました。8歳くらいの少年です。黒い髪で全身真っ黒な格好をして、水を飲んでいました。顔を上げた少年は、かなちゃんを見て、びっくりしました。
「どうやって来たの?」少年が聞くと、「蝶を追って」とかなちゃんが答えると、少年の肩に蝶が止まりました。なるほどという顔をして、にっこり微笑むと、かなちゃんに隣に座るよう促しました。かなちゃんはドキドキしました。同時にとても安心してもいました。こんな風に心安らかでいて、とてもワクワクした感じは初めてでした。どのお友達といるときとも違います。
「黒部隊なの?」と聞くと、そうだと頷きました。少年は、黒部隊の話をしてくれました。人間がなかなか気づかないとき病気や事故に合わせることで、気づきを促すことが主な仕事です。たまに、人間世界で悪いことをすることによって、魂の学びにすることを助けるときもあります。
「とっても難しい仕事なんだ。苦しすぎて学びに目が行かなくなることもある。人間の魂の状態をよく見て、どんな苦難なら受け入れられるのかを見定めて、行うんだ。人間を信頼し、自分を信頼できなければやれないんだ。」
そんな話を聞いたのは初めてでした。
「そして、その人間はどうなるの?」かなちゃんは、不思議に思って聞きました。
「課題を乗り越えた後の魂の輝きは、それはそれは美しいんだ。」「白部隊で見るよりも?」「ああ、もっともっとだ。これは見てみなくてはわからない。言葉ではうまく言えないんだ。」
かなちゃんはとても見てみたくなりました。
「どうやったら、私もそれができる?」少年は微笑んで、「ときが来たらね。」と答えました。「えー、それってどういうこと?」少年が、何か答えようとしたとき、
「かなちゃーん。」きのちゃんの声が聞こえました。「はーい。」と答えた瞬間、もうかなちゃんは、いつもの場所にいました。
「あれ?!」かなちゃんは、目をぱちくりしました。
「どうしたの?リーダーが呼んでるよ。」きのちゃんに引っ張られなが、かなちゃんは、あれは夢だったのかなと考えていました。
それから、お仕事とお仕事の合間には、いつも黒部隊とあの少年のことを考えてしまいます。また、彼に会ってみたい。黒部隊の話をもっと聞きたい。でも、どうやったら会えるのか?検討もつきません。日が経つにつれ、思いはどんどん膨らんでいきます。ただ、この話は誰にもしてはいけない気がして、相談することはありませんでした。
そんなある日。いつものように、「きれいになーれ!」とやっていると、ひらひらと青い蝶が飛んでいくのが見えました。あわてて、そちらを見ると、黒部隊の人がいました。
近づいて見ると、あのときの彼ではありません。やはり同じ8歳くらいの男の子です。
「こんにちは。」と声をかけてみました。驚いてこちらを見ましたが、目が合うとにっこりして「やあ。珍しいな、白部隊か。」と言いました。
思いきって、「黒い髪で、片目が緑の男の子知りませんか?」と聞いてみました。「ああ、かいか。かいは、4つ上に今はいるよ。」「4つ上?」そうだと、頷きました。お空は層になっていると、そういえば聞いたことがありました。
「どうやったら行けるの?また会える?」と聞くと、「それはわからないんだ。ときが来たら行けるし、ときが来たら会えると思う。」と少年が答えました。
「また、同じ言葉。ときが来たらって、いつなの?!」ため息をつき下を向きました。それでも、黒部隊への道順だけは知ろうと、顔を上げたとき、もう、その少年はいなくなっていました。
また、手がかりを失ってしまいました。
会いたいけど、会えない。どうしたらいいの?途方にくれたまま、お空へ帰りました。
帰ると、リーダーに呼ばれました。「今まで、かなちゃんには、日本を任せてきたが、アフリカへ飛んでくれないか。戦争の上に、火山が噴火し、人手がたりないんだ。」
やったことのない仕事だし、行ったことのない場所に、怖いなという気持ちがありました。 でも、黒部隊のことが頭をかすめ、見たことのない世界を見てみたい気持ちも同時にありました。 「はい。行きます。」そう答えると、次の瞬間、もうその場にいました。
もうもうと砂煙が上がり、壊れた石の建物があちこちにあります。 片足をなくして虫の息の人、血を流して倒れている人がそこら中にいます。 グレーのもやとはちがう、グレーの塊のようなものがその人たちを覆っています。 いつもなら「きれいになーれ」というと、一度できれいになりますが、 一度ではとてもとても取れないのです。やっときれいにしたと思ったら、 またすぐもやがかかり始めます。
かなちゃんは、はじめてしんどいなと思いました。 それでも、できるだけ、きれいにしようと、たくさんの人に近づきます。 でも、数が多すぎて、やってもやっても終わらないのです。
だんだんと、もう無理かもしれない・・・。そんな気持ちが芽生えてきました。 もう、自分の力でこの人たちをきれいにすることはできない。 何もすることはできない。
そう思うと、ぼーっと座り込んでしまいました。 涙がどんどんあふれてきました。あとからあとから涙がでてきて、わーわー声をあげて泣きました。
一通り泣いてしまうと、また頑張ろうと、思え立ち上がったそのときです。
目の前に、黒髪の青年がたっていました。18歳くらいでしょうか。 白くて長くゆったりした服を着ています。じっと目を見ると、片目が緑色をしています。
「かいくん?」思わず声がでました。前に会ったときとはずいぶん違いましたが そんな気がしたのです。 こくりとうなずいたのは、やっぱりあのとき会った黒部隊の少年でした。 「一緒においで。」そういうと、ぐんと引き上げられた気がしました。 気づくと、上のほうから、今いた場所を眺めていました。 あれほど泣いて疲れていた心と身体も、すっと落ち着いたように感じました。
「ここから見てごらん。何が見える?」そう言われて、もう一度覗き込みました。さっきまでいた場所だけでなく、地球全体が見渡せました。
戦争の起きているアフリカと日本やアメリカなどがうっすらした帯状の線で繋がっている様子が見られます。そしてよく見ると、国により色も違っています。ズームアップして1人1人を見てみると、人間の魂の状態がそれぞれ違うことが見えてきました。小さな子どものような状態から、穏やかなおじいさんのような状態まで色々です。そして、その魂と身体とのバランスや、宇宙と繋がっている線の状態もバラバラです。
かなちゃんは、急に目が覚めたような感覚になりました。
日本とアフリカで起きていることがバラバラではないこと、人間はみんな同じでなく、それぞれ違う状態であることをパッと理解しました。世界で起きていることは全て繋がっていて、それぞれの魂にはそれぞれの学びがあるのです。
「今の君なら、もう大丈夫。」そんなかい君の声がしたかと思うと、もう戦場に戻っていました。
「きれいになーれ!」かなちゃんは、またステッキを振り上げました。日本にいたときより、大きくて明るい光が出るようになっていました。それに、もやが取りきれなくても、気にならなくなっていました。今自分のできることを、今必要としている人へ届ける。それがかなちゃんのお仕事です。
赤部隊のきのちゃんもやってきました。一緒になって、必要な人へと届けました。
やり遂げたかなちゃんは、自分のことを誇らしく思えました。お空に向かって、「ありがとー!かいくーん!」。そう言って、大きく手を振りました。
ずいぶんときがたちました。かなちゃんはぐっと背が伸び、髪は腰まであります。白くて長い服を着ています。そう、あのとき、かい君に連れてきてもらった4つ上の世界にいるのです。
下を見ると、白部隊に入ったばかりのまなちゃんが見えました。これでいいのかな?と自信なさげにやっています。かなちゃんは、それを見ながら、懐かしい気持ちになりました。「いつでもまなちゃんが必要なときには、助けに行かなくちゃ。」そう思いながら、にっこりと微笑みました。
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