かんぺきな対称 ~ヘンゼルとグレーテル~

『かんぺきな対称』
~ヘンゼルとグレーテル~

元々は「おかしの家」くらいの印象だった。

こどもたちが可愛いお菓子の家を見つけて、嬉しくて、可愛くて、甘くて、美味しくて、楽しくて・・、メルヘンチック。

もしかすると子供の頃にこの物語に出会ったときは、おかしの家を見つけるシーンが一番印象的で、夢のようで、

ただ「おかしの家」に憧れたのかもしれない。

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大きな森のそばに、貧しい木こりの夫婦と二人のこどもが住んでいた。男の子のヘンゼル、女の子のグレーテル、母親は二人にとってはままはは。

家に食べ物がなくなった夜、ままははが言う。「このままじゃ4人とも飢え死にしていまうわ。こどもたちを森におきざりにしましょう」父親は悩んだが、うるさく言われ頷いた。お腹が空いて起きていたヘンゼルとグレーテルはその話を聞いていた。

「わたしたち、もうおしまいね」「グレーテル、泣くんじゃないよ。ぼくがなんとかするからね」ヘンゼルは上着を着て、こっそり外にでた。そして白い小石をポケットいっぱい拾った。

次の日、家族4人は森へ行った。ヘンゼルは一番後ろを歩いて、ポケットの小石を一つずつ落としていった。森の真ん中につくと、親たちは焚火をつけた。「おまえたちはここで休んでおいで。わたしらは気を切ってくるからね」焚火にあたって待つうちに、ヘンゼルとグレーテルはぐっすり眠ってしまった。

ヘンゼルとグレーテルが目を覚ますと、辺りは真っ暗闇だった。「もう森から出られないわ」「グレーテル、泣くんじゃないよ。お月様が出たら、道ができるから」月が昇ると、ヘンゼルが落とした小石は、金貨のように光った。二人は小石をたどって、無事に家まで帰った。

何日かして、ままははが父親に言った。「残っているのはパンひとつ。子どもたちを森に捨てるしかないわ」ヘンゼルとグレーテルは今度も話を聞いていた。ヘンゼルは外へ出て、小石を拾おうとした。けれどとびらは鍵が閉まって開けることができない。「今度こそ、おしまいね」「グレーテル、泣くんじゃないよ。神様がきっと助けてくださるからね」

夜が明けて、家族4人は森へ行った。ヘンゼルはもらったパンきれを崩して、少しずつ落としていった。森の奥まで来ると親たちは焚火を焚いた。「おまえたちはここで休んでおいで。わたしらは木を切ってくるからね」グレーテルは自分がもらったパンきれを、ヘンゼルと分けて食べた。そして二人はぐっすり眠ってしまった。

二人が目を覚ますと、辺りは真っ暗闇だった。「待っておいで、グレーテル。お月様が出たら、パンくずが見えるから」けれど月が昇っても、パンくずは一つも見えない。森の鳥たちが、みんな食べてしまったのだ。「大丈夫。道はきっと見つかるよ」ヘンゼルはグレーテルに言った。けれど夜じゅう歩いても、道はわからない。次の日も、二人は森から出ることができなかった。迷子になって3日目。おなかがぺこぺこの二人は、白い小鳥が歌うのを聞いた。

小鳥は森の中を飛び、小さな家の屋根にとまった。近寄ってみると、家はお菓子でできていた。壁はスポンジケーキ、窓ガラスは氷砂糖。屋根にもお菓子が並んでいる。

ヘンゼルとグレーテルは大喜びで家をかじりだした。美味しくて夢中になっていると、家の中から声がした。「誰だい、私の家をかじるのは?」扉があいて腰の曲がったおばあさんがでてきた。おどろく二人におばあさんは言った。「おやおや、可愛い子どもたち。遠慮しないで中へお入り。怖いことなど、なんにもないよ」ヘンゼルとグレーテルが家に入ると、おばあさんはご馳走を並べた。ミルクにパンケーキ、りんごにくるみ。二人はたっぷり食べて綺麗なベッドで眠った。

おばあさんは、本当は悪い魔女だった。子どもを家に連れ込んでは、殺して食べていたのだ。次の朝、魔女は眠っていたヘンゼルをつかまえて、小屋に閉じ込めた。それから魔女はグレーテルに言った。「とっと起きな、なまけもの。水を汲んでお前の兄さんにご馳走を作るんだ。しっかり太らせてあたしが食べるのさ」グレーテルは泣いたが、魔女の言う通りにするっしかない。

それから毎日ヘンゼルはたっぷり食べ物をもらった。でもグレーテルにはザリガニの殻ばかり。魔女は毎朝ヘンゼルに言った。「隙間から指をお出し。太ってきたか見てやろう」魔女の目は霞んでよく見えないのだ。それに気づいたヘンゼルは指のかわりに毎日骨を差し出した。骨を触ると魔女は顔をしかめる。「がりがりだな。これじゃあまだ食べられない」

ひと月が過ぎて魔女はとうとう我慢できなくなった。「もう待つのはごめんだ!今日こそヘンゼルを食ってやる!」魔女は大鍋を用意して泣きじゃくるグレーテルに言った。「まずパンを焼くとしよう。グレーテル、釜戸に入って、火の加減をみておくれ」釜戸からは赤い炎が噴き出している。魔女はグレーテルを釜戸に閉じ込めてヘンゼルと一緒に食べるつもりだった。

魔女の企みに気づいてグレーテルは言った。「わからないわ、どうやって入ったらいいの?」「ばかな娘だね。ここから入ればいいんだよ」そう言って魔女はパン焼き釜に頭を入れた。いまだ!グレーテルは魔女をどんと突き飛ばし、パン焼き釜に閉じ込めた。炎に包まれた魔女は恐ろしい声でわめいた。

外に飛び出したグレーテルは急いで小屋を開けた。「ヘンゼル兄ちゃん!もう大丈夫よ。あたし、魔女をやっつけたの!」小屋から飛び出したヘンゼルはグレーテルと抱き合って喜んだ。部屋の中で二人は魔女が隠していた宝石を見つけた。ヘンゼルはポケットにいっぱい、グレーテルはまえかけにいっぱい、宝物を詰めた。そうして二人は、魔女の家から出て行った。

ヘンゼルとグレーテルが森を歩いていくと、大きな川にぶつかった。「渡れっこないや。橋がないもの」とヘンゼルは言った。「でもあそこに白い鴨がいるわ。きっと助けてくれるわよ」グレーテルが呼ぶと鴨はそばに来てくれた。ヘンゼルは鴨の背中に乗るとグレーテルに言った。「グレーテル、一緒におのりよ」「だめよ。二人じゃ重すぎるもの。一人ずつ渡してもらいましょう」鴨はグレーテルのいう通り、一人ずつ向こう岸へ渡してくれた。

ヘンゼルとグレーテルは無事に森を抜けることができた。家に着くと、ままははは死んでいた。二人を見た父親は涙を流して喜んだ。家族3人は仲良く楽しく暮らしたそうだ。

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この童話もまた、大人になって初めて物語の全容を知った。

次々にくる、予測とは遥かに違う展開。

少し、奇妙な展開。

どの登場人物からの視点にも立てて、妙に引き込まれる。

この物語のすごいと思ったことは、『対称』であるところ。

グレーテルは、いつもお兄ちゃんのヘンゼルの知恵や優しい言葉や強い心に助けられていた。

でも、ひとつきもの間与えられるのはザリガニのがらだけ、恐ろしい魔女に監禁された地獄を越え、その恐ろしい魔女を、知恵をつかって、やっつける。

そして、それまでヘンゼルが言ってくれていたように、ヘンゼルに「だいじょうぶ」を伝える。

助けられていた幼い妹が、とんでもない敵を倒して、助け、強くなる。

恐ろしい魔女は、子どもたちに罠をしかけていた。

幼さに付け入り、「お菓子」でおびき寄せ、騙し、ころしては食べるという残酷な行為を続けていた。

そして、散々騙し続け子どもたちに、自分が食べようとしていた幼い子どもに、あっけなく、騙され、ころされる。自分にかえってくる。

意地の悪い卑劣なままははも、

絶体絶命からの帰還も、

元通りになる親子関係も、

ヘンゼルとグレーテルの知恵や強さ、助ける・助けられる、引っ張る・ついていく、の前半後半のバランスも、

いくらでもあるその要素。

行為そのものの対称。

行為の度合の対称。

状況の対称。

内面の対称。

爽快で、絶妙で、かんぺきな、対称。

そこに、魅せられる。

mikke!

みつける・とらえる・つながる  誰も特別じゃない。誰もが特別な存在。 誰もが表現者であり、誰もが自由に自分を創造できる。 空の下 誰もが みな輝く主人公。 みなが主人公として「好き」をする自分に還り、心地よく、自分の意志で自由に楽しく生きられる優しさだけの世界に。 We are in the Circus World! ノベルセラピー、表現アートセラピー、 ソウルナビゲーション、イメージワーク