-地球の全てに優しさの雫を- 『おはなをあげる』
-地球の全てに優しさの雫を-
『おはなをあげる』
作:ジョナルノ・ローソン
絵:シドニー・スミス
出版社:ポプラ社
この絵本に、文字は出てこない。
「絵」に出てくるのは、赤色のフードつきの服を着た女の子と、父親らしき男性。
父親は、仕事から家路についているときなのだろうか。
女の子と手をつなぎ家に向かっている。
父親は、仕事の電話か妻からの電話なのか、立ち止まって携帯電話で話している。
女の子の方は、向いていない。
手をつないでいないときも。
手をつないでいるときも。
女の子は、大人の腰の高さの辺りから、
信号待ちの大人の顔を見上げる。
行き交う車の後部座席にうつむいて座っている大人の顔を見る。
女の子は、父親が電話で手を放しているとき、道端に咲いている花を見つけた。
電柱のすぐそばで咲いている花。
アスファルトの隙間から咲いている花。
手を伸ばせば届くくらいの高いところでコンクリート壁の隙間から咲いている花。
見つけて、
摘み取って、
束ねて、
花の香りを吸う。
嬉しそうに見える。
父親は、そんな女の子の様子は見ていない。
親子が並木道を歩いている途中、女の子はある光景が目に入り、
父親の手を放す。
道の真ん中で鳥が横たわっていたのだ。
その鳥の胸に、
女の子は摘み取った花を、おいた。
そして、先を歩く父親に走って追いついた。
歩きながら、
ベンチで寝ている大人の靴にも花をさす。
父親は見ていない。
家に着くと母親を抱きしめそっと母親の髪に花をさす。
両親が抱き合い、女の子はかえって間もなく外に出かける。
女の子が過ぎ去ったあとの、
庭にいる幼子や赤ちゃんの髪にも、
花がある。
女の子は、
花と、
愛と共にいる。
絵本の色はとても印象的だ。
黒と白以外に色があるのは、
女の子が来ている赤い服に、
草花に、
バス停で待っている女性が着たワンピースの、花柄。
そして、小鳥たち。
女の子が死んでしまった鳥に花をあげた場面から、
少しずつ、色がついてくる。
ベンチで寝ている男、町の景色、行き交う車の色、庭の柵、人の顔や服、髪の毛。
色が増える、
まるで、愛が広がるように。
女の子は花を愛し、
花を抱きしめ、
微笑んでいる。
微笑みを、
分けている。
微笑みを与える花を慈しみ、
愛し、
共にいる。
名乗らない花と、
名乗らない女の子。
ただ微笑みを与える。
優しさとは、なんなのか。
優しさとは、どれほど尊いのか。
太陽と雨と土と風という大自然という愛で育った花、
大地と共にいる動物や、
ひと。
それらの尊さ・愛おしさを重んじることを思い出させる少女。
地球にあるすべての「存在」が、
互いの存在を愛と優しさで慈しみ、
共に在ることを喜び、
与えるを喜び、
注がれる優しさの一粒一粒の愛の雫が、
ずっと、ずっと、この先もずっと、
与えるを喜ぶ存在を増やし続ける愛の星になりますように。
愛=優しさ、
それだけでいい。
この少女のように。
今日も明日も
微笑みが生まれますように。
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